鉄炭団子

1998年、武田重信長崎大学水産学部教授の「南氷洋の海水に鉄を与えるとケイ藻類が増える」という論文が掲載される。植物の成長に必要な無機栄養塩類(硝酸やリン酸など)は十分に存在するのに、なぜか植物プランクトン(浮遊性の微細藻類)が少ない場所があるという「高栄養・低クロロフィル問題」だ。特に魚介類の餌として重要で「海の牧草」と呼ぶ善玉プランクトン、ケイ藻類が少ないことが問題なのである。1988年に米国のジョン・マーチンらは海洋においては鉄が制限要因であると説く植物栄養学の「リービッヒの最小律」の海洋版である「鉄仮説」を提唱する。生物の必須元素の1つである鉄は、現在の酸化的な地球表層では三価鉄として存在するがこのイオン三価鉄は難溶性で海水中にほとんど溶存していない。このような海水では鉄が制限要因となり、植物プランクトンの光合成生産、ひいては、漁業生産が制限されていると説くのが鉄仮説。それが検証されたのは鉄の超微量分析技術が発展したからだ。

鉄不足により植物プランクトンの光合成が抑制されると二酸化炭素の吸収も抑制される、逆に言うと鉄を与えれば二酸化炭素の吸収が促進され地球温暖化の防止に寄与する。これに気づき長沼毅広島大学準教授らは、鉄分をどっさり添加する。1970年代の論文ではクエン酸鉄はケイ藻類の増殖に効果がないとのことだった。しかし、彼らの実験で、EDTA(キレート剤)-鉄やただの塩化第二鉄(FeC13)溶液より大きな増殖効果が認められた(下図)。二価鉄神話を打ち破り二価鉄ではなく三価鉄を用いる。鉄炭団子(たどん)である。木炭片や竹炭片をそのまま、あるいは、いったん粉末にしてから炭団子にし、そこに鉄粉とクエン酸を一緒にして混ぜ込んだ「キレートマリン」(商標)を開発したのだが、これによると、①ケイ藻類の増殖が促進される、②ケイ藻類と渦鞭毛藻類(赤潮藻類の1つ)を共存させてもケイ藻類の方がよりよく増殖促進される、③底質のヘドロ量(強熱減量)が低減し底質が改善される(下図)、などの効果が認められたという。

つまり、溶出した鉄イオンは酸化されやすい。酸化された鉄イオンは難溶性の酸化鉄等を形成し、水中で凝集し沈殿する。植物プランクトンはこのような状態の鉄を摂取することができないため、鉄イオンが速やかに酸化されるような条件下では植物プランクトンは十分に繁殖することができない。植物プランクトンが十分に繁殖できないと、他の水中生物の増殖や活性化も期待できないため、水質環境の改善につながらない。また、クエン酸鉄では、長期に渡って継続的に鉄イオンを植物プランクトンに供給できないという問題があるが、鉄と炭と焼酎滓或いは柑橘類の滓とを含有し、鉄と炭とが焼酎滓や柑橘類の滓で一体形成させ、水中で鉄と炭との接触により鉄イオンを溶出し鉄イオンと焼酎滓または柑橘類の滓に含まれているキレート化剤により鉄キレートを生成すること水の浄化を達成できるというのだ。

この「バイオサイエンスとインダストリー」記載記事を読んでぶっ飛んでしまう。というのも、フォトリソの湿式エッチングで塩化第二鉄とクエン酸はなにを隠そうわたしの専門分野のひとつで分析方法と自動測定装置などの開発に深く関わってきた経験があるのだから、報告書を見た一瞬ですべてを理解する。これで、地球温暖化は食い止めることができると。これについては深海などの「巨大重力圧下での微生物増殖」という課題とも関係するのであらためて考察してみる。

※商標登録第5354731号

Advertisements

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s